青年が背中に視線を感じてふと振り返ると、この写真が壁に飾ってある。グランドホテルの歴史資料室の中でのことだ。
彼はなぜかこの写真の女性に強く心惹かれ、彼女のことを調べ始める。青年は新進の脚本家である。
彼女は、1912年当時人気のあった女優で、その名はエリーズ・マッケナ。グランドホテルに長い間逗留し、芝居を演じたという記録が残っている。
しかも、この女優が死んだのは、
1972年、今から8年前(現在の設定は映画の公開時の1980年)、青年が処女作を上演したその日である。
突然、青年の脳裏に8年前の処女作上演の記念パーティーでの出来事があざやかに蘇る。
見たこともない或る老婦人が突然青年の前に現れ
「帰ってきて・・・」という言葉を遺して去っていく。その人こそ、この写真の女優の晩年の姿そのものである。
青年は女優の家を訪ね、晩年女優が愛読していたという本をきっかけに
女優がグランドホテルに泊まっていた1912年当時にタイムスリップできるのではないかと考え始める・・・・
このタイムスリップの仕方が、エレガントでなんともステキなのだ。
タイムスリップモノは数多くあるけれど私はこのやり方がとても気に入っている。
そのやり方はここでは話さないけれど青年の切実さが伝わってきて
まさにそれは恋そのものだ。
そう、この映画は「恋」そのものの持つ情熱や狂おしさ、せつなさを描ききっている。
映画を観ることで自分も時を越えた恋愛をしている気持ちになる。
観ていない方には是非ご覧いただきたい。
この映画は、公開当時はほとんど話題にならなかったけれど
ジワジワとファンを作り続けて、30年以上経った今でもカルト的な人気を誇っている。
ミシガン州マキナック島に現存するグランドホテルでは
今もこの映画のためのコンベンションが催されこの映画が上映されているとのこと。
因みに、港座の開業は1887年。定員1000人の東北一を誇る芝居小屋であったそうです。
立ち寄った旅一座の中には日本版エリーズ・マッケナのような女優が
いたのでしょうか・・・
そのまま残っていればグランドホテルのような歴史的建造物でしょうね。
私は昔脚本家の田渕久美子女史にこの映画の存在を知らされた。
それから早20年以上の時が過ぎているのである。
青年を演じたクリストファー・リーブはその間に乗馬の事故で半身不随になり
8年前、2004年に亡くなられた。でもだからこそよけい
そのギリシャの彫像のようなその姿がまぶしく感じられる。
女優エリーズを演じたジェーン・シーモアは今どうしているのか・・・
でも彼女の他の映画は観たくない気がしている。
私にとってジェーン・シーモアは「ある日どこかで」のエリーズ・マッケナなのだ。
でも私は知っている。
彼女が、ボンドガールであったことを・・・・
田渕女史の「タイムとラベルもの」が早く観たいものである。