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わたしにとって、ある意味特別な映画です。
それには二つの意味があります。
一つは、グリーンハウスで観た映画であるということ。あの淀川長治さんをして「世界一の映画館」と言わしめたグリーンハウスで観た映画の一本です。
もう一つの意味においては、まさに「スティング」というか「してやられた!」という意味でです。
たしか、私が中学一年か二年の時だと思います。その日私はグリーンハウスの回転ドアをいそいそとくぐり抜けました。
それというのも既に私は「明日に向って撃て!」で映画の魅力にとりつかれ、その後たまたまテレビで観た「暴力脱獄」で完全にポール・ニューマンにいかれてしまいました。そしてこの「スティング」は「明日に向って撃て!」のポール・ニューマンとロバート・レッドフォードのコンビであり、監督も「明日に・・・」と同じジョージ・ロイヒルだというのですから、私のテンションはあがりっぱなしです。期待度120%の状態でグリーンハウスの赤いジュウタンを歩いたのです。
そこそこお客さんは入っていたと思います。映画がはじまる前特有のザワザワとした雰囲気の中、「ここいいかな?」という声がしました。声の主を見ると同級生でした。仮にNとします。Nとは中学でおなじクラスでしたが、特別仲がいいというのでもなく悪いというのでもない。彼も一人できたようです。隣に座ってもいいかな?というのです。ほんとを言うと一人でゆっくり一人で観たい気がしましたが、そう言って事を荒立てる気にもなれませんでした。「・・・ああ、いいよ」しょうがねえな、同級生のよしみで付き合ってやるか、そんな気持ちで返事をしました。それが間違いの元でした。
盛んに話しかけてきます。クラスの同級生のうわさ話から、映画が始まる前のCMの論評までとどまる所を知りません。たまりかねた私は、
「映画始まるから静かにしようよ。周りにも迷惑かかるし・・・」
私にとっては精一杯の言葉です。
でもその私の言葉が功を奏したのか、その後ピッタリとNは静かになりました。
私は映画の世界に引き込まれていきました。
若い詐欺師フッカー(ロバート・レッドフォード)とその師匠のルーサーは手を組んでまんまと大金をせしめる。しかし、その金がギャングのボス、ロネガン(ロバート・ショウ)の下に届くはずのものであった。ロネガンは激怒し、ルーサーを殺してしまう。
フッカーはルーサーの旧友である「伝説の大物詐欺師」ゴンドーフ(ポール・ニューマン)の下を尋ねるのだが・・・・
伝説の大物詐欺師であるはずのゴンドーフは今や落ちぶれて愛人の娼婦が経営する小さな遊園地を隠れ家にしている。FBIに付け狙われているのだ。
ゴンドーフはひどい二日酔いで、部屋の中にある小さな洗面に氷をぶちまけて頭から氷水を被るシーンがあります。身を持ち崩した生活をしているということでしょうが、当時中学生は酒を飲んだ経験もなく、何でそんなことをするのか訳がわかりませんでしたが、何だかとてもカッコウよく見えたことを覚えています。
「伝説の大物詐欺師」が、愛人である娼婦の経営するノスタルジックな遊園地に潜んで自堕落な日々をおくっている・・・・なんと映画的な設定でしょうか。
これを例えばマーロン・ブランドが演じたら貫禄がありすぎて、この映画の軽みが出なかったでしょうし、ゴンドーフの頭のよい、切れる感じも出なかったでしょう。
デビューの頃、まるでマーロン・ブランドのバッタモノのように言われていたポール・ニューマン独自の誰にもマネの出来ないウィットに富んだ人物像を作り上げています。「スティング」で、アカデミー主演男優賞を上げても良かったとも思いますが、主演男優賞候補はおろか、助演男優賞候補にすら入っていません。
因みに主演候補はロバート・レッドフォード(「スティング」)、ジャック・レモン(「セイブ・ザ・タイガー」)、アル・パチーノ(「セルピコ」)、マーロン・ブランド(「ラスト・タンゴ・イン・パリ」)。オスカーを取ったのはジャック・レモンです。
でも候補にすら入っていないのはおかしい・・・・政治的なものかと勘ぐってしまいます。作品賞と監督賞、脚本賞、他7部門で「スティング」が受賞しています。
さて話は戻りますが、自堕落な生活をしていたゴンドーフも、師匠を殺された仕返しにギャングのロネガンに一泡吹かせてやろうという若いフッカーの熱い思いに「伝説の大物詐欺師」の古い友人を弔うこころに火がつく。そして二人は協力してロネガンを罠にはめようと動き始める・・・・
映画はゴンドーフ側とロネガン側との駆け引きがあり、どんどん面白くなって行きます。
そして、あの今や有名になったどんでん返しに向っていくわけです。当時の私は当然そのどんでんを知らないわけで、それを観てああなるほどと溜飲を下げて、大満足で家へ買えるはずでした。
ところがそうはなりませんでした。あのどんでん返しになる前に・・・隣のNが突然しゃべり出したのです。
「いい、ここでフッカーがさあ、×××××んだよ」耳を塞ぎたかった。塞ぎたかったけれど、もう耳に入ってしまった。
そのときの気持ちをどう表現していいでしょう・・・・とにかくNの首をギュウギュウに絞めて振り回し、熱々のピザの釜に頭突っ込ませパンツにねずみ花火を放り込んでハンマーでケツを打ち抜いて、宇宙を3週半ぐらいしてほしかった、やらなかったけれど・・・
それから映画が終わるまでの何分間かは、ショックで何が何だかわからなかったような気がします。
心の中に未消化の、割り切れないものが残りました。映画を愉しみ切れなかった。あんなに愉しみにしてたのに台無しだ・・・・
「ほら、ほら・・・ね、おれ3回観たから知ってるんだ」追い討ちをかけるように、得意げなNの声が耳に残っています。
今となってはその昔「グリーンハウス」という映画館での思い出です。喫茶コーナーからのコーヒーの香りが今も匂ってくるような気がします。
あれから、いつのまにか35年以上も経っています。
Nとはあれから6,7年後、偶然新宿歌舞伎町の路上で会いました。
Nが普段から赤い顔をよけい真っ赤にして一生懸命喋っていた記憶がありますが、どんな話だったか、内容はまるで覚えていません。なんとなくぎこちなかったような感触だけが残っています。
そして、Nは歌舞伎町の雑踏へ消えて行きました・・・
それ以来、Nとは顔を合わせていません。
今回、9月24日(金)25日(土)の「台町と映画を楽しむ会」の上映会で「スティング」を予定しています。9月26日はポール・ニューマンの命日でもあります。皆さんのご来場をお待ちしておりますが、くれぐれも隣の方にどんでん返しの内容をお話しになりませんように・・・・しゃべりたくなるんですけどね、これが。
1973年ユニバーサル映画 題名の「スティング」とは騙す、法外な代金を請求する、ぼったくるの意。
ディビット・w・モラー「詐欺師入門ー騙しの天才たち:その華麗な手口」に基づいている。
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